ウェス・アンダーソン「ダージリン急行」

仲たがいをしていた三兄弟が、インド旅行を通して家族としての絆を取り戻していくロード・ムーヴィー。
割りかしベタなテーマを扱いながらも、主人公である三兄弟のキャラがかなり濃く、良くも悪くも独特の空気を孕んだ作品だった。


「スピリチュアルな旅で自己発見」という大義名分を掲げながらも、旅行鞄を山ほど車内に持ち込み、風邪薬や痛み止めの一気飲みでハイになるバリバリの西洋合理主義体質の三兄弟。
長男はやたらと他の兄弟を束縛したがり、二男(演ずるは「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディ
どうでもいいけど、この人漫才師の博多大吉さんにクリソツである)は車内に毒蛇を持ち込み車掌に怒られ、三男は車中でいきなり現地の女性といたしたり、となんというかもうムチャクチャ。
そんな3人が仲良くできるわけもなく、些細なことですぐに喧嘩。あんまり暴れるもので、強制下車させられるんだが、逆切れして石を電車に投げ出す始末。
それぞれが悩みを抱えていたりするんだが、まるで明日無き暴走。野放し状態である。


そんな野放し3人組が繰り広げる行動を許容し、物語に説得力を持たせるのが、インドという国が持つこれまたハチャメチャなパワーである。
物語冒頭のタクシー爆走シーンで、観客は一瞬にして非日常へと誘われる。
そう、ここはインド。神秘と謎とエネルギーに満ちた異国の地。
インドという非日常の上に物語が成り立っているために、多少登場人物たちの頭のネジが外れていようが、違和感なくスクリーンと対峙することができる。
で、またこのインドの風景の撮り方や見せ方が抜群に上手いんだ!


物語を通して、主人公である三兄弟はそれぞれの意見を尊重したりはしない。
それぞれが思い思いにハチャメチャな行動を取り続けた挙句に、ラストではキチンと、旅の目的である「家族の絆」を取り戻して見せるのだ。
それもこれもインドという国の懐の深さ故ではないだろうか?
物語のラストで三兄弟がアッサリと物質主義・回顧主義を放棄するシーンなどは、見ていて実に快い感動がある。


やはり、インドは凄い。劇場で見てよかったです。


あ、ちなみに個人的には最初と最後にチョビっとだけ出演しているビル・マーレーがいい味出してて好きでした。