フェデリコ・フェリーニ「崖」

崖 [DVD]

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観終わった後に、何とも言えない不思議な余韻が残る映画だった。
ラストで主人公の詐欺師が迎える人生の結末は、実に悲惨で残酷なものである。
にも関わらず、観るものに悲壮感を感じさせないのは何故なのか?


主人公である詐欺師達は、まぁハッキリ言って人間的には最低の部類に属する連中だ。
ある時は、貧しい人々の信仰心に付け込んで詐欺を働き、またある時は子ども達が見ている前で、大人から平然と金を巻き上げる。


一方で、彼らは劇中で人間味たっぷりに、実に活き活きと描かれている。
妻に詐欺師としての顔を知られ、詐欺家業から足を洗う仲間の一人、ピカソのその後の幸せを願わない観客がいるだろうか?
娘の眼の前で警官に逮捕される恥辱を味わう、老詐欺師アウグストの姿に悲哀を感じない観客がいるだろうか?


倫理的には人の道を外れた詐欺師達の姿は、この映画の中で観客の感情移入をスムーズに受け入れる正しい意味での映画の主人公の姿だ。
とにかく人物描写が上手く、見ていて少し腹が立つくらいに巧みに描かれている。
そんな「愛すべき」詐欺師が、人生の最期で見せた小さな良心。
結果的に、その良心が自身の身の破滅を招くわけだが、観客は「悲劇」ではなく「贖罪」「魂の救済」として、その最期を受け入れるのだと思う。


確かにこの映画に登場する詐欺師達は最低の人間だ。一方でこの映画には確実に人間賛歌的な側面があると思う。
そのギャップが、観た後の何とも言えない不思議な余韻になるんだろうな。