今日の一本



ウディ・アレンの「マンハッタン」をDVDで。


神経質で、気難しいが、勢力は絶倫というアレン映画の王道をいく主人公が、友人の浮気相手や年下の恋人、同性愛者になった元妻といった女性達の間を右往左往するというストーリー。


ストーリーとしてはありがちなのに、人を愛するという行為が、いかにエゴイスティックで、利己的なものかというシニカルなテーマが全編にわたって展開されていて、なかなか緊張感がある。


映画の登場人物たちは、皆眼の前の「愛」に対してひたすら、独占的であり、そのために、数々の「嘘」を並べ立てることになるわけだが、アレン演ずる主人公の年下の恋人(女学生)トレイシーだけが、物語の最後まで誠実さを保ち続ける。
その誠実さに、彼女を振った主人公がシッペ返しを喰らうラスト・シーンは痛快だ。


大人の恋愛映画という、本流の楽しみ方はもちろん、少女トレイシーの成長物語としても楽しめる良作。


都会のイメージを無造作にコラージュしたオープニングや、幻想的なプラネタリウムでのデートシーン、
朝霧の中のマンハッタンなど、映像の美しさと、さりげない演出の洒脱さも秀逸でございます。


特に終盤、恋人を失った主人公が、自分が生きる意味を見出そうと、自動連想の要領で、思いつくままに自分の好きなものを挙げていくシーンが、大のお気に入り。
インテリを自称する主人公は、最初こそ芸術作品を次々に出していくのですが、突然
「中華料理屋のカニ料理…」
といきなり、イメージが通俗になり、直後に、
「トレイシーの横顔…」
と自分から振った元恋人を未練がましく連想してしまうという。


男の情けなさ全開の、みっともない描写なのですが、いいんですよ。このシーン。男なら、絶対心に残る名シーンだと思います。